2001年 10月 25日、マイクロソフト Windows XP の OEM 版が発売された。
Windows XP は、すでにご存知のとおり、Windows Me と Windows 2000 の 両者の後継であり、パーソナル用途向けであった Windows 95 系とビジネス 用途向けであった Windows NT 系を統合する OS(Operating System=基本 ソフト) である。 カーネル(OS の基本部)は、Windows NT 系をベースに しており、Windows 95 系に比べれば、はるかに安定している。 それでいて、 Windows NT 4.0、Windows 2000 と続いて長年チューンアップされているので Windows Me よりも軽快に動作するケースも現れている。 UI(User Interface) は、コードネーム Luna と呼ばれるものに変わっており、角の丸いやわらかい 感じになっている(今までの UI に戻すこともできる)。 スタートメニュー が大きくなって項目が多くなり、よく使うアプリケーションをすぐに呼び出 せるようになった。 この辺は、最近発売のパソコン雑誌に特集されているので、 そちらを参照していただきたい。
今回の発売は、OEM 版なので、マイクロソフトから販売するものではなく、 パソコンメーカーから発売するものだ。 それにあわせて、各社メーカーは、 10月25日に新型パソコンの発売を開始した。 いちはやく XP を試したい 人は、パソコンショップへ行けばすぐに体験できる。 しかも、すべての 製品が Pentium 4 1.5GHz 以上になっていて、20万もあればかなりいい 製品が手に入るから驚きだ。 Windows XP に IT 不況の巻き返しを期待 していることの現われだろうか。
OEM 版は、パソコン本体にプリインストールされているのもばかりではない。 自作パソコン向けのマザーボードはもちろん、ハードディスクやメモリと セットになった Windows XP も発売されている。 そのため、思い切って 本体を買うことを考えなくとも Windows XP を入手することができる。
10月25日は、アメリカでの Windows XP の正式版の発売日だ。 そのため、 マイクロソフト会長のビルゲイツ氏は、本社のあるシアトル(西海岸)から、 アメリカ同時テロが発生したニューヨーク(東海岸)へ渡り、発売キャン ペーンを行った。 今、有名人がアメリカでイベントを行うことは非常に 危険なことだが、事件も無く無事に行われたようだ。 その様子は、インター ネットでビデオ・ストリームが公開されており、1時間にも渡る番組になっ ている。番組では、ゲストとして、世界各国で放送されているアメリカの クイズ番組『クイズ・ミリオネア』の人気司会者リジス・フィルビン氏が 登場している。 リジス氏は朝のワイドショーにも出演しているウィットの 利いた温和な印象の方で、パソコンとは縁が無さそうだ。そのような方にも 使えることをアピールしたかったのだろうか。 番組では、ビルゲイツ氏が、 ラップトップ・パソコンを片手にタイムズスクエアにくり出して、無線で テレビ電話をしたり、CD の購入(.NETの説明)をしたりして Windows XP のすばらしさをアピールしていた。
Windows 98/Me で使っている人は、DirectX などのビデオやサウンドを 駆使したアプリケーションやゲームにおいて、ドライバが対応していない ために使えなくなる可能性がある。 しかし、Windows 2000 発売のころに 対応製品が少なかったことと比べると、対応製品は多い。 周辺機器メーカー のホームページでアップデート・ドライバが提供されていることもあるので、 確認してみるといい。
Windows XP では、プロダクト・アクティベーションと呼ばれる技術が 導入されており、パソコン1台につき1ライセンスが必要となる。 つまり、複数台パソコンを使っている人は、今度から台数分の金額を 払わなければならなくなった。 以前から1ユーザ1ライセンスではなく 1台1ライセンスであったが、前者の方が一般的になっているため、 今後は、実質、強制力が働くマイクロソフトのみに後者が適用されるだろう。 また、マイクロソフト以外のソフト会社が市場から不利な立場になって しまった。 プロダクトアクティベーションには、悪いイメージがすでに 付いているが、API を公開して公平にしていただきたいものだ。 そうすれば、良質な有料コンテンツの発展に貢献すると思うのだが。
なお、Windows XP 正式版(パッケージ版)は、11月16日に発売する。 コンビニでも予約できる。
2001年 10月 16日の日経ソフトウェアのホームページ上の記事に よると、Windows や Linux などマルチプラットフォームで 動作する商用オフィスアプリケーションが、これから登場して くるという。1つは、一太郎で有名なジャストシステムの Ark シリーズ。もう1つは、Java や Solaris で有名な サン・マイクロシステムズの StarSuite だ。どちらも、 体験版をダウンロードすることができる。
Ark シリーズは、Java と XML をアーキテクチャの基本にした マルチプラットフォームのアプリケーションだ。Java により、 どのマシンや OS の上でも動き、XML により最も互換性が 期待できるデータ形式を扱う。ぱっと見た目には、マイクロソフト・ オフィスに似た印象を受けるが、アプリケーションのサイズが 数MB と小さいために機能は小さい。その分、軽快であるはず なのだが、Java VM 上で動いているためか、全体的なレスポンスが 悪い。保存するデータは、XML から派生した XHTML 形式などを サポートしている。価格は、1万円少々。
StarSuite は、本名を StarOffice と呼ぶのだが、商標の関係で 日本では StarSuite と呼んでいる。実行ファイルは、Windows, Linux, Solaris でそれぞれ別になっている。つまり、ネイティプ コードで書かれているため、Ark シリーズよりは軽快だ。 BASIC 的なスクリプトも用意されており、機能的にも、マイクロ ソフト・オフィスに迫るものがある。保存形式は、オリジナルの 形式に加え、マイクロソフト・オフィスの形式にも対応している。 現在はβ版だが、なんと製品版も無料になるらしい。
ところで、Ark シリーズのプラットフォームである Java は、 StarSuite と同じサン・マイクロシステムズが開発したもので あることは興味深い。マイクロソフトは、自社 OS で動くオフィスを 開発しているが、サンは、自社開発の Java の上で動かない StarSuite を開発したのだ。 確かに、Java の開発によって、 様々なプラットフォームで動作させる技術があり、それを生かして、 様々なプラットフォームに対応した StarSuite を開発したのだろう。 しかし、Ark のレスポンスの悪さを見ると、オフィスのような 大規模なアプリケーションには、Java は向いていないと公認して いると考えざるを得ない。
ちなみに、マイクロソフト・オフィスは、マック版が出ているため、 マルチプラットフォームと言えなくもないが、Linux 版は出ていない。
Linux 用オフィスアプリとしては、Red Hat Linux とのパッケージが 発売されている HancomLinux 社の Hancom Office や、Trubo Linux 社の Applixware Office がある。どちらも2万円でおつりが来るほど 安いのだが、Windows 版が出ていないせいか認知度は低い。 後記のリンクを参照すると、Linux には多くのフリー・オフィス アプリケーションが出ているようだが、こちらの認知度も低い。 機能性、操作性、信頼性でまだ十分ではないのだろう。 サーバ関係では、使えるものが多いが、アプリケーションでは、使える ものが少ないために、Linux はいまいちブレークしていない。
しかし、StarSuite は、機能的にもかなり良くなっており、製品版を フリーにする戦略を取っているところから、StarSuite の認知度が 上がるだろう。それに伴い、Linux/Solaris でも使えるオフィスが あることが知れ渡ることになれば、Windows に代わるデスクトップ OS として、Linus/Solaris がブレークするかもしれない。
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2001年 10月 11日、米マイクロソフトは、Microsoft Visual J# .NET のベータ版を発表した。.NET Framework 上で稼動するアプリケーション を開発でき、XML Web サービスの開発を軽減する。
Visual J# は、マイクロソフト製の Java ツールである Visual J++ を .NET に対応したものであるが、Java のラインセンスに関連して、 Java VM 上で動作するアプリケーションが開発できないようになっている。 その代わり、Visual C# や Visual BASIC .NET によって出力される 中間言語 MSIL(Microsoft Intermediate Language)を実行する 仮想マシン CLR(Common Language Runtime)の上で動作する。 しかし、CLR を搭載しているコンピュータは、Windows XP しかなく (現状の Windows でも、マイクロソフト製品をインストールすることで いつのまにかインストールされる可能性はあるが)、他社が CLR を 開発する可能性はゼロに近いため、事実上、Windows しか使えないこと になる可能性が高い。マイクロソフトが、Linux などの CLR を開発する ことも十分考えられるが、あまり力を入れてこないだろうから、細かな 不具合による互換性を維持するコストが増える可能性は十分にある。
以前マイクロソフトは、Java を Windows で最も速く動くように拡張しようと したことがあり、米サン・マイクロシステムズは契約違反であると告訴した。 この裁判の結果、マイクロソフトは、Java のライセンスを失い、 Windows XP には、Java VM を搭載しないことになった。このままでは、 Java アプリケーションを最も普及している OS、Windows で動作しなく なってしまう。これに対し、評論家 Clay Shirky氏と O'Reilly & Associatesは、Windows パソコンを出荷する大手 PCメーカーに対し、 Java VM をプリインストールするように呼びかけている。しかし、 Visual J# の発表と同日、マイクロソフトは、独禁法関係で敗訴したためか、 出荷状態のデスクトップにアイコンを自由に追加および削除ができるように、 ライセンスを緩和した。これにより、Java VM のインストーラをデスクトップ に置くことができるようになり、簡単にインストールできるため、 Java アプリケーションが動かなくなる心配は無さそうだ。Java VM は、 ActiveX コントロールで提供され、Internet Explorer でもこれまでどおり、 Web ページ内で実行することができるだろう。それに、サン・マイクロ システムズ製のJava VM に統一されることにより、互換性の問題も解消される だろう。(余談だが、Windows XP では、Internet Explorer もアンインス トールできるようになっているらしい)
Visual J# では、Java 言語自体が、ライセンスを受けていた当時の 古い仕様に基づいており、最新の J2EE(Java2 Enterprise Edition) をサポートしていない。つまり、Visual J# では、J2EE までに強化された データベース関係の仕様が使用できない。これは、.NET 戦略と真正面に 対立する J2EE を、ある意味おとしめる行為だと、サン・マイクロ システムズは批判している。
Visual Studio .NET は、今年中にリリースする予定だが、 Visual J# は、来年半ばにリリースする予定。
2001年 10月 5日、マイクロソフトは、Pocket PC の新版、 Pocket PC 2002 日本語版を、PDA(Personal Digital Assistant =携帯情報端末)メーカーに供給を開始した。
見た目は、Windows XP に似たすっきりした印象を受けるが、 機能的には前バージョンと大きな変更はないようだ。 バルマー氏は、今回のバージョンアップを、Windows 3.0 でブレークして 3.1 で滑らかになったことになぞらえた。 しかし、閉じる(ような動きをする)ボタンが追加されたことで、 Windows の Alt+Tab のような直感的な操作ができるようになった ことと、グラフィティ(Palm 機で好評の一筆書き入力)に相当する Block Recognizer がオプションで選べるようになったことは、 注目に値する。 Pocket PC は、起動すると Today 画面(アプリケーション) が表示され、最近のスケジュールや新着メールなどの情報を 一括して把握できるようになっている。 この画面に壁紙が貼れるようになり、美しい画面になっている。 アドレス帳は、分類表示が XP のように見やすくなっている。 アドレス長やスケジュールは、Active Sync3.5 を経由して、 デスクトップの Outlook(非Express)と同期が可能。 映像や音楽を鑑賞する Media Player がバージョン8になり、 ストリーミング・ビデオを見ることができるようになった。 画面の解像度は変わっていない。 音声メモは、前版に続いて搭載されている。英語版で搭載された 電子書籍リーダーのマイクロソフト・リーダーは搭載されていない。
Pocket PC 2002 では、ビジネスユーザ向けに機能強化されている。 セキュリティ・レベルを設定でき、パスワードを設定できるように なった。PC ネットワーク上の共有フォルダへのアクセスも可能になった。 メルコから CF タイプの無線 LAN が、Air-H" から CF タイプが 発売されるため、使い勝手も良くなるだろう。また、最近被害が 多くなっているウィルスに対抗するアンチウィルスAPIを搭載した。
この Pocket PC 2002 を搭載する PDA メーカーは、カシオ、 コンパック、東芝、HP、NEC、富士通。 コンパックは、アップ グレードサービスを開始し、NEC は、Pocket Gear を 11月末に 製品化する予定であると発表、富士通は Pokcet PC ポータル サイトをニフティで開設し、PDA 事業に参入することを発表した。
全メーカーとも CPU は Strong ARM SA-1110(Intel)を採用している。 これまで MIPS 系 CPU を採用してきたカシオだったが、 来年に発売するカシオペア E-200 では、Strong ARM を採用した。 これは、Windows CE は、MIPS、SH などの CPU にも対応しているが、 Pocket PC に関してのみ、マイクロソフトは Strong ARM のみの 対応となっているためだ。Pocket PC に関しても、Microsoft Intel 連合(ウィンテル)をとったことになる。来年初めには、 Strong ARM の次期版(コードネーム XScale)が搭載される予定。 なお、コア OS には、Windows CE 3.0 を使用している。 年末には、4.0(コードネーム Talisker)が発表される予定。
Windows CE は長い歴史があるが、ようやく主要メーカーを 味方につけた。しかし、多くの PDA ソフトウェアの開発者は、 開発のしやすさから Palm に留まっている。そして、Pocket PC 機の価格は高いため、Palm のシェアは 64% と、予想より 減ってはいない。 しかも、PDA 市場は低迷しており、メーカーは、Pocket PC 機自体の利益よりも、それを組み込んだソリューション・ サービスによる利益に期待している。
まだデスクトップのようなウィンテル独占状態には程遠いが、 マイクロソフトが手ごたえを感じていると考えていいだろう。
オープンソースで有名な Linux の標準化活動が始まっている。
現在、Linux は、4大 Linux 販売会社(Turbo Linux, RedHat, 独SuSE, カルデラシステムズ)があるが、世界中には 150もの Linux が存在する。 この、様々なバージョンが 存在することが、Linux をプラットフォームとしたソフト ウェアの普及を妨げている1つの原因にもなっている。 つまり、細かな移植作業(コスト)がフリーよりも高くつく 可能性があるのだ。
そこで、Linux の標準化を進める団体 Linux Standard Base (LSB)は、標準化活動を行い、ver 1.0.0 を公開した。 一方で Free Standards Group も Linux Development Platform Specification 1.1 という標準を公開している。 2つも標準案があるのは、まだ発展途中であることを示す。 いずれ1つにまとまるだろう。
オープンソースによる自由で創造的な開発と、安定を求める 標準化活動は矛盾している。 しかし、完全に自由にすることも、 強く標準化を進めることも、どちらもデメリットを生む。 LSB のダニエル・クインラン会長は、両者のバランスを 見出すことが重要だと述べている。
最も売上の大きい RedHat では、標準化はそれほど積極的ではない。 なぜなら、多くのソフトウェアがまず RedHat で動くように 作成するからだという。 デファクトスタンダードを持っている 勝ち組の論理だ、と思うだろう。 しかし、RedHat の Linux に 必ず合わせなければならないということはない。 Trubo Linux 特有の機能をベースにしたソフトウェアが出ることもあるだろう。
しかし、問題は、1つのマシンに RedHat 用と Trubo Linux 用の ソフトウェアを同時に実行できないということだ。 Windows の DLL 地獄でもこの問題に会っているが、Microsoft は、Windows 2000 から、アプリケーションごとに使用する DLL を指定できる 解決策を提示している。 この解決策を Linux に持っていくとする ならば、OS 固有の部分が DLL のようにモジュール化されており、 かつ別の OS でも動作可能になっていなければならない。 しかし、モジュールの交換が可能であっても、そのモジュールの インターフェイスが技術的に古くなることもある。 難しいところだ。
現在、4大 Linux 販売会社では、ユーザインターフェイスや OS の ファイルの格納場所が異なっているが、Linux のカーネル(OS のコア) や表示ソフトは同じものを使っているため、まだそれほど深刻な状況には なっていない。 しかし、いずれ UNIX のように深刻な分裂が起きたり、 Windows の DLL の バージョン地獄のような問題が重大になる可能性が ある。
デファクトスタンダードの強さを最も知っているのは Microsoft と Intel だろう。 Micorsoft は、必ず前のバージョンの Windows と完全な互換性を保ち、Intel は x86 アーキテクチャをまだ 引きずっている。
4大 Linux 販売会社は、Linux の互換性を重視して共生をするか、 コスト重視で一人勝ちを目指して Linux 市場が小さいままでいるか、 どちらを選択するかに注目したいところだ、と言いたい所だが、 負け組が勝ち組と互換性を持たせることになるのが現実的だろう。 しかし、すべてにおいて勝ち負けが一方に集まることはあまりない。 ある部分だけ勝ちになることができれば、吸収されることはあっても、 生き残るだろう。