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フリーソフトで経済活性化――“フリーソフトイニシアティブ”設立 2002年7月11日
特定非営利活動法人(NPO)の“フリーソフトイニシアティブ”(FSIJ:The Free Software
Initiative of
Japan)は10日、都内に報道関係者を集め、同団体の設立と会員募集についての記者発表会を開催した。FSIJはフリーソフトに関する国内初のNPOで、5月30日付で東京都から認証を受けている。理事長は青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授で工学博士の井田昌之氏。
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青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授で工学博士の井田昌之氏 |
発表会の冒頭では、理事長の井田氏がFSIJについて説明した。同氏は「3年の準備期間を経て、本日発表に至った。FSIJは、フリーソフトに関して日本の代表的な組織になることを目指す。個別に活動する団体の輪の中で、その活動をリードし、連携の手伝いができるようにしたいと思っている」
「一般的にソフトウェアは、市場において売買される工業製品としてのみとらえられている。ソフトウェアを人間の知的活動の成果ととらえ、人間とソフトウェアの関係を改めて考え直す必要がある。FSIJの目的は、フリーソフトウェアの概念の整理を助け、そのあり方について我々の意見を訴えること。それに基づいて、フリーソフトウェアの開発と利用の促進、開発者および利用者の交流、技術レベルの向上、および国際的な発信と、NGO的な立場での交流や、国外の関連書団体との連携といったことを展開させていく」
「政府および行政、企業活動の2つの柱に対して貢献できる第3の軸、すなわちCivil
Societyとしての役割を果たせると自負している。大きな見方では、個々の創造性への刺激とそれに関する連帯。1人1人の活動なくしては、経済の活性化はあり得ないと考えている」
「簡単に言うと、料理を作っていて醤油が足りなくなったので隣に行って借りてこよう、という考え方がCivil
Societyの根本にある。しかし我々は、観念的なフリーソフトウェアの開設に主眼を置くのではなく、実体のある経済活動の中での位置を模索している組織であることをご理解いただきたい」と述べた。
フリーソフトウェアの定義についての説明では、まず“フリー”という言葉に対する誤解について挙げた。
- “フリー”は無料という意味ではない
- “フリー”は著作権が放棄されている(いわゆるパブリックドメイン)という意味ではなく、著作権者が不明であるという意味でもない
- “フリー”はソフトウェアに対し違法複製等を含むどんな行為をするのも自由という意味ではない
- “フリー”は非商用という意味ではない
そしてFSIJは、フリーソフトウェアは以下の4つの自由を持つソフトウェアであると定義している。その4つの自由とは、以下の通り。
- 目的を問わずプログラムを実行する自由
- プログラムがどのように動作しているか研究し、必要に応じて修正を加え取り入れる自由
- 身近な人を助けられるよう、コピーを再頒布する自由
- プログラムを改良し、コミュニティー全体がその恩恵を受けられるよう、改良点を公衆に発表する自由
上記の定義は文書にも準用され、FSIJではこれを“フリードキュメント”と呼ぶ。この4つの自由は、プログラムの利用や複写、修正、再頒布に関する人々の権利の制限を排除することを目的とする団体“FSF(the
Free Software Foundation)”の創設者、リチャード・ストールマン(Richard
Stallman)がまとめたものと同一のもの。
以上の定義を踏まえた上で、FSIJは活動を展開する。具体的な活動の内容は、ソフトウェア技術の啓発と、開発者・利用者の支援を行なうとともに、フリーソフトウェア概念およびフリードキュメント概念の普及に向けた啓発活動を行なう。また、フリーソフトウェアおよびフリードキュメントの情報収集と発信を行なう。そして、フリーソフトウェア開発者・利用者・ボランティア個々の活動を連携させ、政府行政機関や企業活動とは異なった視点から、共通のコミュニティーを形成するとしている。
さらに、日本初の創作フリーソフトウェアのデータベースを構築し、フリーソフトウェアの相互利用に必要な枠組みを供給することで、日本発のソフトウェアを集積・発信する。内容の区分けとしては、リナックス部門、インターネットツール部門、デスクトップツール部門、フリーソフトウェアドキュメント部門、日本語版GNUソフトウェア部門などを用意するという。
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日本初の創作フリーソフトウェアのデータベースを構築し、フリーソフトウェアの相互利用に必要な枠組みを供給することで、日本発のソフトウェアを集積・発信する。 |
井田氏は「今まで日本では、フリーソフトウェアをまとめて発信する場がなく、ブラックボックスと言われており、海外の人々はどのようにして日本のフリーソフトウェアを探せば良いのかわからなかった。データベースはまだないが、ネットワーク環境とサーバー環境が整い次第スタートしたい」と語った。
活動の一環として、国際的な交流を推進するために、国際シンポジウムも10月22日と23日に開催する予定。技術セミナーも10月21日に開催する。技術セミナーは、定期的に開催する予定という。
会員の募集は、FSIJのウェブサイトで行なっている。会費は、個人正会員の入会金が3000円で年会費が7000円、個人学生正会員の入会金が1000円で年費は4000円、団体正会員の入会金は1万円で年会費は3万円。賛助会員の賛助金は1口3万円。
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経済産業省経済産業政策局の産業構造課課長補佐である吉本豊氏 |
発表会に出席した経済産業省経済産業政策局の産業構造課課長補佐である吉本豊氏は「井田先生とは個人的に10年来の付き合い。情報産業の中での産業構造を考え、今後情報政策を実施していくと、これまでの顧客を囲い込んでいくというビジネスのやり方から、フリーソフトウェアやオープンソースをベースに、高品位で安価なサービスを行なっていくことが重要になっていくだろう。併せて、日本の情報分野での産業政策も変わってくると思う。FSIJには、21世紀の産業構造を考える上での台風の目になっていただきたい」と述べた。
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産業技術総合研究所の情報処理研究部門研究部門長である大蒔和仁氏 |
同じく発表会に主席した産業技術総合研究所の情報処理研究部門研究部門長である大蒔和仁氏は「大企業のトップの方々は、最新のソフトウェアが果たしている役割の重要性を正しく認識していない。認識していたとしても、直接的な貢献をするというよりは、出来上がったものを使うというユーザーとしての立場をとっている。ソフトウェアの力をつけるためには、NPOのような市民的な力が必要。プラス産業界の強力な開発力で、我が国も他の国に負けないような開発力を得られるのではないかと思う」と語った。
(編集部
田口敏之) |